ヤマメの一生(鞍岡小学校3年生の学習資料)
2003.03.10
やまめの里
秋本 治
はじめに
ヤマメは、サケ科の魚でサクラマスの河川陸封型(かせんりくふうがた)といわれ、水のきれいな川の上流に生息しています。
2年で親魚(しんぎょ)となり、秋に産卵(さんらん)して死んでいきます。産卵した卵は、冬にフ化、春からエサを食べて成長し、あくる年の秋に親魚となって産卵します。
それでは、ヤマメの一生を季節ごとにくわしく述べることにします。
■10月 「瀬すり」と「木の葉ヤマメ」
ヤマメの産卵は、10月中旬の紅葉(こうよう)が始まるころで、紅葉が終る11月はじめまでつづきます。
産卵期がちかづくとメスは、川をのぼったりくだったりして産卵場所(さんらんばしょ)をさがしはじめます。オスは、オスどうしでかみあってけんかをはじめます。弱いオスは傷ついて死に、強いオスが残ってきたころメスは卵を産みはじめます。
産卵場所は、水の流れがはやい浅瀬(あさせ)で、メスが尾びれをまげて流れの中の砂をはたきます。すると小砂がまいあがって下流のほうに流されます。
これをくりかえしていくと、しだいに小さな砂がなくなり、小石のくぼみができるのです。くぼみができたところで、そのくぼみの中にメスは卵を産み出しオスは精液(せいえき)をかけて受精(じゅせい)させます。
産卵が終ったメスは、さらに産卵したくぼみのすぐ上流で同じように尾びれをまげて流れの中の砂をはたきます。すると小砂がまいあがって産卵したくぼみのところに流れてきてくぼみがうまっていきます。このようにヤマメは、水の流れる力を利用して卵を産みつけるのです。
産卵が終ったヤマメは傷だらけになり、つかれはてて落ち葉の中にうづまりながら死んでいきます。このため、死んだヤマメはあまり人目につきません。このころのヤマメを「木の葉ヤマメ」ともよびます。
ヤマメが産卵しているようすは、尾びれをせいいっぱいまげて砂をたたいているので、遠くはなれたところからでもキラキラと光って見えます。
このようにしてヤマメが産卵することを「瀬すり」といいます。「瀬すり」の場所は、砂がきれいにあらったようになっているので簡単に見つけることができます。
みなさんも、紅葉の始まる10月ころ、近くの川に行って産卵のもようをかんさつしてみてください。
■11月 発眼(はつがん)
砂の中にうみつけられた卵は、しだいに細胞(さいぼう)がふえて生命体(せいめいたい)となり、血管(けっかん)が見えるようになります。すると黒い点のような形で目玉ができます。この目玉が見えるようになることを、眼(め)が発生することから発眼(はつがん)と呼びます。発眼は、産卵から積算温度(せきさんおんど)で200℃がめやすとなります。
■12月〜2月 ふ化稚魚(ふかちぎょ)
冬になると、川の水は冷たくて3〜4℃の日が多くなります。発眼(はつがん)した卵は、冷たい水の砂の中でゆっくりとふ化をしていきます。
ふ化は、卵の殻(から)がわれて、中から卵黄(らんおう)に頭と尾がついたかたちの「ふ化稚魚」が出てきます。
「ふ化稚魚」は、魚の姿をしておらず水中で泳ぐこともできません。お腹の部分にあたる卵黄(らんおう)のえいようを吸収(きゅうしゅう)しながら育ちます。産卵からふ化まで積算温度でおおむね400℃かかります。
■3月 浮上稚魚(ふじょうちぎょ)
産卵から、さらに積算温度が650℃以上になるとお腹にかかえた卵黄(らんおう)のえいようを吸収(きゅうしゅう)してしまい、ほそながい姿になってヒレができ、魚のかたちになります。そうすると、体力がついてきて砂の中からはい出して水中で泳ぐようになります。
こうして水中で泳げるようになった魚を「浮上稚魚」とよびます。「浮上稚魚」は、まだ、水のながれのはげしいところでは生活できずに、流れのない川岸(かわぎし)の草むらの下などにいます。体長(たいちょう)は、1.5〜2センチくらいの大きさです。この季節には、かんたんに見つかりますのでかんさつしてみてください。
■4月〜5月 しばご
浮上稚魚(ふじょうちぎょ)は、カゲロウの幼虫(ようちゅう)などの小さな川の虫を食べながら成長(せいちょう)していきます。体長5センチにもなると2グラム以上になり、ながれの早い瀬(せ)で生活するようになります。
このようにして、ながれのはやい瀬(せ)で生活するようになった稚魚を「しばご」とよびます。「しばご」は、川岸(かわぎし)の柴(しば)の中からわいて出てくるように見えることからそうよんだものと思われます。
「しばご」は太陽の光のある明るい場所でくらし、成長するにしたがって岩陰の近くを好むようになります。
■6月〜7月 ヤマメ(えのは)
このころになると、雨が多く、川の水量(すいりょう)もふえて、川虫などのエサも豊富(ほうふ)になることから、エサをもりもり食べて急激(きゅうげき)に成長(せいちょう)します。体長も10センチから15センチになりヤマメと呼ばれるようになります。
鞍岡では昔は「えのは」とよんでいました。
ヤマメの一番おいしい「しゅん」のきせつです。ヤマメが「渓流の女王」と呼ばれるのはこのころの美しい姿(すがた)からきたものです。
■8〜9月 成魚
成長のはやい魚は、体長15センチ以上に育ちます。ヤマメ釣りでは、15センチ以下のヤマメは釣上げてもふたたび川に放流して持ちかえらないのが釣りのマナーとされています。食用として取引されるのもこのころからです。
■10月 「トビ」、「婚姻色(こんいんしょく)」、「サビ」
10月は、ヤマメの産卵期ですが、1年魚はまだ成熟(せいじゅく)しておらず産卵できません。ただ、成長の早いオスは体長20センチにも達し、一部に成熟(せいじゅく)して産卵に参加するものが出現(しゅつげん)します。この成長の早いヤマメを「トビ」とよびます。
とびぬけた成長をすることから「トビ」とよぶものと思われますが、「トビ」は産卵に参加しても死なない割合が高く、翌年秋まで生きつづけることができます。
オスが成熟すると体の色が赤く変ります。このことを「婚姻色」(こんいんしょく)と呼びます。
また、産卵に参加すると疲れて肉質がぼろぼろになり、食べてもおいしくなくなります。この状態を「サビ」といいます。
なお、この10月から翌年2月までは禁漁期(きんりょうき)――釣ってはいけないきかん――となります。
■11月〜12月 銀毛(ぎんけ)ヤマメ
秋から冬にかけてサケ科の幼魚(ようぎょ)の特徴(とくちょう)である楕円形(だえんけい)のパーマークとよばれる模様(もよう)が消えるものが現れます。これを「銀毛(ぎんけ)ヤマメ」とよびます。この出現率(しゅつげん)率は、養殖魚が非常に高くなります。
銀毛ヤマメは、体にたくさんの厚い「うろこ」がついたものです。楕円形(だえんけい)の模様(もよう)が消えたようにみえるのは、この「うろこ」のためです。翌年の春になると「うろこ」はとれてふたたび楕円形(だえんけい)の斑紋(はんもん)があらわれます。
これは、昔、海に降りていた習性(しゅうせい)が残ったもので、海水の浸透圧(しんとうあつ)にたえられるように準備(じゅんび)するためです。
■1月〜2月 「寒のえのは」
誕生して一年たったヤマメは、15〜20センチに成長し、再び冷たい水の冬を迎えます。冬の水温の冷たい季節は、ほとんどエサもとらずに岩陰(いわかげ)にそっとひそんで春をまちます。
このころのヤマメは、昔は「寒のえのは薬になる」といわれていました。寒い冬は、ヤマメを釣ることがむずかしいからそうよんだものか、ほんとうに薬になるのかよくわかっていません。
■3月 解禁のヤマメ
ヤマメ漁(りょう)は、3月1日から解禁(かいきん)です。この日から、釣り人があちこちで釣りをたのしんでいる風景をみかけます。
解禁(かいきん)のころは、産卵に参加した「トビ」のヤマメは「サビ」が回復しておらず、冬のあいだ冷たい水の中でエサもとらずに、じっと春をまっていたので痩せていて、食べてもおいしくありません。
このころのヤマメのことを「雪しろヤマメ」とよぶ地方もあります。雪解け(ゆきどけ)の冷たい水にいることからそうよぶのでしょう。
もうひと月ほど、そっとしてあげてエサをもりもり食べて元気が回復(かいふく)してから釣りをたのしむことができたらいいのになあと思います。
■5月〜6月 旬(しゅん)のヤマメ
ヤマメは、水温が7℃以上になるともりもりエサを食べはじめます。そして、川岸(かわぎし)にヤマブキの花が咲くころから、もっとも姿が美しくなります。体長も20センチをこえるようになり、食べてもさいこうにおいしい季節(きせつ)で、「旬(しゅん)のヤマメ」といいます。
このころになると、メスは、秋の産卵のためにあわつぶみたいな小さな卵をおなかに育てはじめます。
■8月 産卵の準備
夏至をすぎて、太陽がしだいにひくくなるにしたがい産卵の準備(じゅんび)をはじめます。オスは、アゴがつき出て婚姻色(こんいんしょく)がみえはじめ、メスは体がまるっこくなってオスとメスの特長(とくちょう)がはっきりでてきます。
■9月 成熟期
9月になると、しっかりと成熟(せいじゅく)はじめ、下旬ころからしだいにエサを食べなくなります。
体じゅうの成長エネルギーが生殖(せいしょく)エネルギーにかわり、卵や精子の生育をたすけます。このため肉質はぼろぼろになってきます。
産卵するヤマメの体長は、15センチから30センチくらいで1尾で150〜300粒ほどの卵があります。
こうして2年目の10月に産卵をしますが、ごく一部のヤマメは、2年たっても成熟(せいじゅく)せずに、銀毛(ぎんけ)となり、3年目に産卵するヤマメもいます。
以上