第1回・木浦渓谷滝開き

2001年7月22日、第一回の滝開きをおこなった。当日は、椎葉村の仲塔公民館と五ケ瀬町のやまめの里にマイクロバスを配車して参加者の輸送に当った。マイクロバスはすぐに満車となり、30名ほどは各々の車でバスの後について出発した。

 20台ほどの車を連ねて国見トンネルの五ケ瀬側入り口から国見峠へ向かって登り、国見峠下のヘアピンカーブから右して国有林林道に入る。急峻な崖を削り取って造られたつづらおりの林道は、車がカーブするたびにその先が見えなくなるほどで車内では悲鳴と歓声がわきあがる。 車は、林道の土手から伸びる草や蔓を掻き分けながら荒々しい岩盤の上を上下左右に車体を激しく揺らして約1時間後木浦林道の終点近くに辿りついた。ここは、白岩山(1646m)から大きく東側に突き出した尾根の上である。先月から滝の調査のために切り開いた荒削りの歩道が深い谷間に向かって降りている。車の駐車が終わって全員集合し、簡単なオリエンテーションを済ますと一斉に滝をめざして出発した。

 にわかづくりに開設した歩道を80人もの人がはじめて歩く。通常30分ほどで谷に下りるはずであったが、その行列はなかなか前に進まない。急斜面に戸惑う人が多く、しんがりの人たちが神事の場所に到達したのは1時間後であった。 滝つぼの入り口には、先発隊の「霧立越の歴史と自然を考える会」のスタッフが神事の注連縄を張り、お供えものやテープカットの準備などをして用意万端整えて待っていた。

 いよいよ念願の滝開きである。椎葉の厳島神社の宮司さんが装束を整えて烏帽子を被り錫を両手に持って胸のあたりに捧げると途端に神々しくなった。人跡未踏の地で行なわれる神事の舞台は、最高の演出である。お払いの祝詞から降神の儀に次いで滝開きの祝詞が滝の音が響く森閑とした森にろうろうと奏上された。玉串の奉奠が行なわれ、椎葉村の婦人連絡協議会の前会長の那須さんが「滝に捧げる詞」を読み、全員がこれを朗読した。理事の黒木勝美氏と私の労作である。内容はつぎに掲げる。

 滝に捧げる詞(ことば)

 太古の昔より、椎葉山中奥深く、

 漆黒(しっこく)の岩肌に怒涛渦巻く瀑布を造り、岩清水を集めて遊ばせる幻の滝よ。
 あなたは、断崖絶壁を盾にかたくなに人間の侵入を拒み続けて、白布を引いたように美しいその姿を隠してきました。

 人知れず、獣たちと戯れながら自然の営みを営々と続け、悠久の歴史を刻んだ森よ。
 あなたは、清らかな水を絶え間なく流し続けて美しい滝を育み、開発という名の元に荒廃させた自然を護ってくれました。

 私達はこれまで、百間トドロや白水の滝として伝説を語り継いできましたが、このたび、あなたたちに近付きたいという願いを受け入れてくれ、遂に邂逅(かいこう)することができました。

 神秘的な姿で出迎えてくれたニ00一年五月十七日を私達は終生忘れることはないでしょう。

 私達は、地球誕生のエネルギーを秘めて燦然(さんぜん)と輝くあなたの美しさに惹かれ、あなたと交歓することの歓びを多くの人たちに分かち合いたいと願い、本日滝開きをおこないます。

 多くの人々が、この聖地を訪れ、悠久の自然が奏でるエネルギーに、心の疲れを癒し、生きる力を蘇らせることでしょう。 私達は、この自然を傷つけず、汚さず、自然と共に生きることを誓います。

 願わくば、ここを訪れる人々に安全と大自然のパワーを与え給い、生きることの素晴らしさをご教示賜らんことを。

ニ00一年七月二十二日

霧立越の歴史と自然を考える会




 こうして、厳かに神事は終わった。なんだか心が晴れ晴れしたような気分である。その後、宮崎、日向、延岡、椎葉、五ケ瀬と、それぞれの地域からの参加者代表に滝開きのネームの入った滝の写真を記念品として贈呈し、滝つぼへの入り口にセットしたテープにハサミを入れて全員一斉に滝つぼへ降りた。ため息と歓声があがり、滝のしぶきを受けながら見上げる人々の顔は紅潮していた。きっと滝のパワーを全身で受け止めていたのであろう。


 この滝は、滝の基底が標高1050m、滝の上部が1200mで三段構成となっている。滝つぼへ降りたその部分は三段目の滝で落差75mある。この上流にもいわゆる「白水」といわれる内の一つであろうと思われる滝がこれも三段あって黒い岩盤の上を真っ白な水流が落下している。また、下流数百mの地にも大きな滝つぼがあり、しっかりした名前をつけなければ混同して場所を特定できない。これからの課題である。

 滝へのルートは、急峻な尾根伝いを辿る上級者コースで、すべての人々が気軽に行ける歩道ではない。 霧立越の歴史と自然を考える会では、これからも椎葉村の参加を呼びかけながら、正式な歩道の整備と案内板等の設置をお願いしていきたい。滝廻りコースが完成したら素晴らしい観光地になるであろう。

2001年7月23日
秋本 治