禁・無断転載
第5回・霧立越シンポジウム

自然と共に生きていくためのシナリオ その3

1997年5月17日(土)〜18日(日)
場所  五ヶ瀬町町民センター


4.森を学び森を想い森を語る

パネラー     遠藤利明氏  林野庁・森林総合研究所造林機械研究室長
パネラー     安楽行雄氏  九州森林インストラクター協会会長
パネラー     岩永恭三氏  熊本県・上益城事務所所長
コーディネーター 秋本 治    やまめの里

秋本 それでは、お疲れの頃と思いますが、あと1時間ほど総括してまいりたいと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします。皆さん方の席の後ろの方に、ブナの若葉、新芽が出た鉢ものを持ってきております。これは、去年の11月に種をまいたものですが、この冬、氷って種を地面から持ち上げてしまって、どうしたらいいか全くわからなかったんですが、氷が溶けて春になったら、みんな目をバッーと出してきたんです。非常に簡単に芽が出るな、というような気がいたしますが、その後の育て方のノウハウについて、また遠藤先生からお話を伺いたいものと思っております。のちほどゆっくり見ていただきたいと思います。

 さて、私どもの地域はブナの南限というような位置づけをしております。ちょうど標高560m位の所の鞍岡の気象観測のデータが平均気温12.7℃〜12.8℃から13℃。ブナの南限の13℃という所に位置づけされているようなことでありまして、先ほど、常緑樹と落葉樹との違い、葉の寿命というようなお話がございましたけれど、そういう落葉樹林帯のシンボル的な存在のブナ帯にあるということです。

 この森の中で人々はおそらく縄文時代から、いろんな暮らし方や作法、生活の知恵みたいなものを伝えてきている。そういうものが地域のベースとしてある。そこから今後を考えていこうということであります。いろいろご議論いただいて、たくさんの質問表がまいっております。こうして進めているさなかにもお気づきの点は質問表をお出しいただきたいと思います。

 それでは、まず遠藤先生。さきほど、世界中でいろんな植林活動をなされていて、日本の現状をお話いただきました。世界の国を回られますと国それぞれによって森林についての考え方が、あるいはその植林のシステムが、技術の違いが、それから考え方の違いとかがあるのかな、という気もするわけですが、世界の各地の森林を回られてそこでお気づきのことがありましたらもう少しお話いただきたいと思います。


遠藤 個々にいろいろございますが、簡単に申し上げますと、おしゃるように物事が違う点と同じ点がございますが、違う点は非常に多いと思います。政府のやり方、考え方も違いますし、その木を植えなければならない目的も違います。純粋に企業的に行うのが非常に多いのは、オーストラリア、カナダ、スウエーデンを初めとしたスカンジナビア諸国です。このあたりは完全に商売として大企業が木を植えているわけです。さらに今度は、サハラ砂漠の周辺になりますと、日本人の方なんかも行って説いて廻って、もうそれこそ子孫のために、明日の暮らしにためにと、自分が飲む水をさいてまで木に水をやって、木を育てるというようなぎりぎりのところで植えているところもあり、すごく幅があるわけです。

 まあ結論的に言いますと、そういう違いがあります。同じ点というのは、先ほど岩永さんとも話したんですけど、非常に簡単な結論で、木というのは植えておくものだと。目的の如何にかかわらずですね。これは植えておくものだと思います。ただ組織的に世界中で、木を植えて、面倒を見ていくという体制はいろいろと違いがある。山に木を植えるというのはすごく簡単なんです。特に雨が充分あるところでは。これは技術がいらないとまで言われてます。

 私の昔の上司なんかは、林業で知ってないといけないことはただ一つだ。それは何かというと、苗木は逆さに植えてはいけません、それだけ知っていればいいと。このようにやることはものすごくローテクなんです。ところが世界を見てみますと、持続的に木を植えて育てるということを、社会として組織としてやるって事は極めて難しい。一言で言えば超一流国家しかできてないんです。日本とかドイツとかアメリカとか、工業や経済において超一流国家しかできないのです。

 例えば政治経済がうまくいかない。国内治安がうまくいかない。そういう国は山に木を植えたり、育てたりはできない。一番ベーシックなことは、木を切ってはいけないって決めたら切ってはいけないんです。そういう切ってはいけないと決めた所を誰も切らないという体制自体が政府がしっかりしていなくてはだめな訳です。だいたいそういうような事ができる政府だけでもグッと数が少なくなるわけです。木を植えるということ自体、簡単な事のようで実は、それをトータルで最後まで持続的にできることは大変なことなんです。例えばここでは人工林が多いとお悩みかも知れませんけど、こんなことができる国はハイテク国家しかないということです。

 秋本 あのう、そういう一流国家の日本の林野行政が実は林野庁も廃止しないと3兆3千億がどうにもならないという問題が起きているわけです。その林野庁のビジョンというものがどうも見えないということがあるんですが、先生はそういうところの研究部門でいろいろ研究されて、行政のお立場としてではなく、いろんな考え方というのをお気づきの点がでてきていると思うんです。また、日本の植林の思想とアメリカの植林の思想の違いですね。アメリカでは、先ず、火をつけて焼いてまっさらにしてそこへ植林するという思想があると伺いました。そこらへんをもう少しお話いただけますか。

 遠藤 先ほどお話しましたようにサバンナでは非常に木を植えているのに対して、もうこれ以上は選択のしようがない。システムなんかないと申しておりますね。私の恩師と申しますか、造林学の私の学生時代の教授で、サトウダイシチロウという先生。今、環境庁の野性動物関係の理事長をやっておりますけど、彼が作った言葉に、施業の自由度というのがあります。林業でいろいろやる事を施業と言うんですが、施業の自由度という言葉があります。その施業は、土がしっかりしていても、その土が流れちゃったりとか、台風が来たりとかでも危険性が少なくて、それで雨もあって温度も良くて、材料もあるという所は安全の幅はとれるんですね。安全の幅は高いと。

 だからアメリカで、やっている事はあれはそういう選択なんだなと思うわけです。ただ、新しく植えるために焼いて全部きれいにしなきゃいけないというのはどうも農業的発想なのかと思います。ちょっと言い換えれば、小麦農業文化圏というか、そういうところがあるような気がします。選択の幅ではないでしょうか。日本人なんかの発想にはないんです。それと日本人は、例えば木を切りまして、杉林ではあまりないですけれども、細い木を切っていて、30cmの林を切る時、20cmくらいの小さい木があれば残しますね。林業の方は少なくともそれを切って新しいのは植えませんよね。そこはやっぱりちょっとセンスが違うなという気がします。

 日本の植林のことを話させていただきますと、世の中でああいう風に大規模に大きくやる事については、いいことも悪い事もあります。失敗もあります。ただ致命的大失敗はないと思います。今までは、どちらかというと、とにかく日本の国をその緑でそれなりに大きな山を、ぼさぼさの山ではなくて大森林を、中緯度において造った。森林と言えるような山で一応荒っぽくは覆ったなということです。これからが、例えばもうちょっとブナを増やしましょうとか、こういう所にはこういう木を、故郷の木を植えましょうとかですね。やっぱり欅なんかは天然のばっかり切ってなくてもう少し植えましょうとかっていうのは、仕上げというかこれから本当にデザインして描いていくということかなと思うのです。

 だから、絵描きさんでいいますと、キャンパスでまずどうデザインするかです。白い絵の具を塗って、さあ、レディーという部分だと思います。ここで財政的に助けていただいて、これから本当の絵を書かせていただければ、私もそこにいた人間として非常に幸せだと思います。

 秋本 その絵を書くというのは、だいたいその絵のイメージというのはどんなものなんでしょうか。

 遠藤 あのう、キーワードは混合林ですよね。あのミックスされた山というのが一のつキーワードになると思います。その場合に杉の隣に例えば広葉樹、その隣に杉というのは技術的に非常に難しくて手間がかかるんですよ。そういうことはする必要ないと思うんです。一反分の杉の隣に一反分の広葉樹。隣の一反分には何々というような形でのミックスがいいと思います。それが一つだと思います。それから特異点ですね。尾根筋、沢筋。これはできるだけ自然なかたちで種類も多くというふうにやりましょうということだと思います。その2つあたりがキーワードになるんじゃないでしょうか。

 秋本 なるほど。だいたいの方向がちょっと見えてきた感じがいたします。それでは、安楽先生。先程お話の緑の手引きの虎の巻のことなんですが、これは誰でも手に入れることことができますでしょうか。そしてそのインストラクターの試験、これはどういうような事を勉強したらいいのでしょうか。

 安楽 はい、まずお話いただいた緑の手引きとそれから樹木のポイントですけれども、これは実は著作権を侵しております。といいますのが全部公の物を販売している物を持ってきておりまして張りつけて、そして自分たちの研修資料として作っておりますので販売する事によって著作権を侵してしまいますので、販売ということはできないんです。

 それで研修とか、そういう集まりでやろうというような時に使っていただくんでしたら、そこらへんはクリアできるというような話を伺っているのであなたにいくらで売りますというような事はやっておりません。ただ、どうしても欲しいという方がいらっしゃって、それが自分の勉強のためにするんだということであれば、この借用している所もその位だったら許していただけるんじゃないかな、とは思っております。千冊とか2千冊をドバッと売ることは、そういうことは絶対できないと思います。私たちはそういうのを作りました。それがいわゆる虎の巻です。

 皆さんは、よく緑のダムといいます。何がダムなのかはなんとなくわかっておりますけども、そこを基礎的なことについて知る、あるいはその地下水のことをもっと知って話をしょうじゃないかということがあると思います。今日も岩永先生から地下水の話がありました。熊本市民は地下水を飲んでいる。その水はどこから来たんだと言われる。誠にそうだと思うんですけど、それが阿蘇の外輪山に降った雨が熊本にどれ位かかって来たかといいますと、今の測定法では200年前後かかって来ているということです。

 そういうことを考えますと、やはりその視点、で水の涵養というもの考えなければならない。200年前と言いますと江戸の後期です。その頃の水を使っているわけですから逆に言いますと、私達があと200年後の子孫のために、水を涵養しなくちゃいけないというような非常に遠大な視点も必要になります。先祖からその自然はもらったんじゃなくて、預かっているっていう意味がしっかり分かるんです。そういう基礎的な事を一応知っておいて話をしようじゃないかということでこの本はできたようなわけです。

 それから、インストラクターの試験といいますのは誰でも受けられます。当初は、森林林業の専門職である営林局職員が一番通るだろうということでしたが、恥ずかしいながら2割に達していないんです。そして、営林署職員が受けると外の野外活動とか、それから安全教育っていうのは合格するんですけれども、森林林業っていうので落ちてしまうんです。勉強の仕方のポイントが違うんじゃないかなというところがありまして、そこらへんをどういうふうに学んでいくかということをインストラクター協会でも考えているところです。

 試験は4科目ありますので、それをクリアーするっていうのが第一条件です。これは全国森林レクレーション協会というところがやっておりますので受けたいと思ったり資料を取り寄せたいとお考えの方は熊本営林局の指導普及課にご連絡いただければと思います。直接、全国森林レクレーション協会に電話されても資料は送ってくれます。試験は9月の末か10月の始めに学科試験がありまして11月の始めに筆記試験と面接試験があります。もし、受けられたい方は、そういう手続きをとっていただきたいと思います。

 秋本 九州で24名というのは非常に難しいんでしょうね。

 安楽 さぁ、どうでしょうか。先程24名といいましたが、今度はだいぶ増えました。以前は東京と大阪でしか試験がなかったんです。それでなかなか一回で通れなかった。実は私も一回で通ってないんです。二回行きまして実地試験まで行きますと三回から四回になります。相当経済的にも負担がかかります。そういうことで今年からは、九州でも福岡の方で受験ができます。日帰りでできますので経済的負担はだいぶ少なくなったと思います。

 秋本 申込み先をもう一度教えてください。熊本営林局ですね。

 安楽 熊本営林局の指導普及課です。そこに電話していただければ、緑の普及係というのがあります。緑の普及係を覚えていらっしゃらなくても、営林局に電話してこういうのがあるそうなんですけど、どうすればいいか、というような話をされると指導普及課の方につないでくれると思います。

 秋本 近くの営林署の方ではそういう斡旋とかはおやりになってないんでしょうか。

 安楽 営林署では資料とか申込書を持っておりませんので、たぶん営林署に聞かれてもそれじゃ営林局の指導普及課に連絡してくださいということになると思います。

 秋本 ありがとうございました。それから、遺伝子資源保存林にかかわられたともお聞きしています。そのあたりをもう少し、遺伝子資源保存の狙いとか、規制とか、もうまったく立ち入ってはならないんだ、とかいろんなお話もあると思うんですが、そのへんをお聞かせください。

 安楽 今、洋ラン関係はほとんどがバイテクで作られるようになりまして非常に安い値段で家庭に入るようになりました。それから、私達が使っている薬の4分の3は植物から採られてといいますか、その主成分はそこから作られています。こうして、これからの先端技術、いわゆる遺伝子工学の発達というものはめざましいものがあります。そういう事を考えますと、今後の植物の可能性というのは非常に高いものがあります。今の尺度で計るよりも私達が思いもよらない、思いも及ばない、そういう価値を含んでいるものがあると思います。

 そういうことから、植物の生態の豊かな森を永久にといいますか、残していこうというのが森林生物遺伝子保存林であります。その森林生体系は、もう手もかけないで災害が起こってもそのままにして残そうという保護林ですが、研究者あるいは、その山の生態とか、あるいはそういうバイテクに使いたいとか、あるいは動植物について研究したいという場合、これは積極的に開放していく。そして、その場でそういう遺伝資源もろもろの研究をしていただくというような事でございます。

 ですから、原生保護をするという意味と違いまして、積極的に活用するということですが、それを言いますと誰でもというわけにはいきませんので一応営林局の方でどんな研究をされるか、どういう事をされるかをお聞きし、その成果も一応皆に公平にわけていただくということで、成果については提出願って公開する。そんな森として保存していこうというのが森林生物遺伝子保存林です。

 秋本 なるほどですね。ところで、霧立越は昔の馬道を歩いているわけなんですが、そこも当然一部は森林生物遺伝子保存林の中にあるわけですけれども、その注意点ですね、今後はどういったことに注意すればよろしいんでしょうか。

 安楽 はい、あの私達が一番心配しているのはやはり森林生態系の保全ですが、中でも、よその植物の種を持っていって種をまくとか、よその花の種をまくとかいうことです。

 今は、なんとなく緑や森というと、ブナがキーワードになっているようですけれど、ここの霧立越の会がやっていらっしゃるように、その森林でとった種を育ててそこに植えていただくのはけっこうだけれども、この山を楽しんでもらうんだということで、よその、それも洋種の石楠花をもってきて植えるとか、あるいはちょっとツツジがここには秋ごろはないなと。よし祖母山から持ってきてここに植えようと、そういうのが一番困るわけなんです。

 そういうことで遺伝子というのは、私はそう難しい事はわかりませんけれども、ひとタネ違ったらもう遺伝子のDNAという構成が違うらしくて、非常にその地域の物が大事だという話を聞いております。まず、よその物を持ち込まないと、その後は一般の山登りと同じで、火の用心はもちろんですけれども、チリとかそういう物、あるいはみかんを食べて種をプッと捨てていただきますと条件が良ければ、そこにみかんの木が出てきたり、梨の木が出てきたり、あるいは桃ですね。そういうのが繁殖力が強いので、果物を食べて投げられたタネが繁殖する。そういうのを一番気をつけていただきたいと思います。

 秋本 そうですね。よその地域の植物を持ち込まないということも非常に重要なわけですね。ありがとうございました。これからしっかり気をつけたいと思います。

 岩永先生もいろいろな森への思い入れをお話いただいたわけですが、何と言っても健康な森を作らなければならないと。その中で、野性の緑と家畜の緑とペットの緑というお話がでました。また、健康な森を造るために宝くじを考えたらというお話もございました。正直いって緑の宝くじのお話はめったに聞けないといいますか、あんまりない発想でおもしろいなと思いました。

 いずれにしましても、健康な森を維持するためには、相当の経費がかかる。それがもうできなくなっているという現状ですね。宮崎県においても国土保全奨励制度という制度事業を作られて、森林組合の皆さん方が中心になっておやりになっています。林業従事者の皆さんに、せめて公務員なみの収入の保証といいますか、生活の補助をお出しになったりとかいろいろやっているんですけれども、それだけじゃまだだめなんだという問題ですね。

 全国2500万haの人工林を10万人位で管理しているといわれますが、これは減っていく方なんだと、絶対数がだめなんだと、切り札がないわけなんです。そこでなにかいい知恵っていう時、あの緑の宝くじというようなお考えになってきたのかなと思うんですが、岩永さん、もう少しお話いただけますか。

 岩永 先ほどの安楽先生のお話ですが、私も補足しておきたいと思います。一番大事な事は、本当によその物を持ってきて自然をめちゃくちゃにしてはいけない。これは鉄則だろうと思います。さっきも申しましたように、きちっと、地域の方々が、地元に住む人がしっかり理解していくということ、そこが大切じゃないかなと思います。

 それから、私が林業の事を申しましたけど今の林業というのは非常に問題です。農業もそうなんです。お金があったとしても働く人がいない。作業する人がいなくなっているわけです。本当に過疎で高齢化なんです。林業は、ちょこっと手伝いをしてもわかりますけど、本当にこんなにきつくて暑くて辛い仕事はない。午前中ちょっと3、4時間動いたとしても、パンツからズボンまで汗でジュクジュクなって体にまとわりつくわけです。本当にきつい仕事なんですよ。やっぱり若い人がいないとできない。

 そういう中でお金をどうするかといわれると、今、最低できることは、森林組合の作業班できちっと体制を作って国とか県とかそういう制度に少しでも合わせてやっていかないといけない。それでも、それが全部間に合うわけじゃない。そのくらい林業はだめになりつつあります。せっかく私たちが雑木林を切って人工林にかえたのに、それをだめな山にしてしまうというのは、それは本当に宝の山を腐らせることです。これは地元の山林所有者の方に一生懸命それを言っても他にどこか財力を持っている人なら別なんですけど本当に厳しい状態にきているわけなんです。

 だから、今の段階で一番できる事は森林組合の作業強化で、そこで作業班をきちっと作る事から始めないと仕方ないと思います。そのために私は、先ほど宝くじまで言いましたけれど、その位、都市民に一生懸命訴えていかないといけない。もう少しなにかいい知恵を出しながら、なるほどといって動くようにしていかないと。

 政府の方に今、林野庁解体論がでていると先ほど言われましたけど、なんか山をバカにしてるなという感じがいたします。ただ、どうしてこうなったんでしょうというのを考えると、やっぱり外材が輸入されて新建材がいろいろ作られてきているんです。そういう中で材木の消費量が減ってきたというのは間違いない事実です。

 工事現場なんかの足場丸太っていうのは今は鉄なんです。昔は全部杉の間伐材だったし、魚屋さんのトロ箱も全部発泡スチロールに変わってます。ああいうのはみんな間伐材の利用だったんですよね。そういう小径木を生産する人工林の山の面積が増えたのに山の仕事がきつい上に搬出してくれる人がいない。清和村であった話ですが、年寄り達がもうあの山はどうしようもないよ、と言っていたら若い人達が5、6人で俺たちに任せなさい、そのかわり儲かった分は俺たちがもらうよ、と言って山を整理したわけです。ところが、5、6人で組んでちょっとしただけで儲かったものだから、えらい喜んで熊本市内に飲みに出掛けたという笑い話がありました。

 若い力でぱっとやると、お金にはなるらしいんです。だからそのへんを考えないといけない。だめだ、だめだ、ではなんにもだめなんですよね。私は行政の一応そいういう責任者にもなるものですから本当に今一生懸命森林組合の体力強化に走りまわっております。

 秋本 はい、どうもありがとうございます。あのう、林業の話になると、なんかこう寂しくなってしまうような話ばかりですね。もう少し夢のあることが考えられないものかなと思うんですが。

 いろんな事を考えてみますと恐ろしいなと思うことがあります。今、宮崎県の水産振興課の方で、リバーフロント構想策定という事業をやっております。それで漁業関係者からアンケートを集めたりしながら作業を進めているのですが、20年前と漁獲がどう変わりましたかとか、30年前とどう変わりましたかとか、環境がどう変わりましたかという様にアンケート用紙にいろいろ設問してあるわけなんです。そのアンケートの結果、漁業関係者が皆危機感を持っているのが、水量が非常に減ってきたということです。30年前からみるとだいたい5分の1位に渇水期はなってきたと。そういうアンケートの結果が出ているわけなんです。私どもの集落でも、湧き水が非常に減ってきた。山間地帯が、過疎地帯の飲料水が渇水期には無くなるという現象がでてきているという事です。

 このままいったらどうなるんだろうと非常に不安があります。それからその、リバーフロント構想のなかでも、魚が育つ環境がだんだんもう無くなってきた。川床はもうサラサラだけで深みのある淵が無いわけですね。魚が生息する環境が無くなってきたというわけです。これをどうするのかという問題もいろいろあるわけなんです。

 先ほど遠藤先生は、これから森の絵を描かないといけないといわれました。その絵の中身ですが、まぁ、大きなテーマですね。それを具体的に取り組んで行くのに、尾根と谷筋を自然に返すというキーワードがありました。先生にお尋ねしたところ渓畔林というお考えであったと思うんです。あの急傾斜地の斜度が45度とか50度という所は、岩盤で表土が薄いところで、そこで杉が80年も100年も持つはずがない。

 だけど、そういうところを全部植え変えてしまうというのは今の日本の経済力ではとてもじゃないができない相談ということです。それではと、その谷と尾根すじを考えることになりますが、まあ、割りと自然林が残されているのは尾根筋です。が問題は谷筋です。

 その谷の方は、かつて自然林では、シオジとかクルミとかカツラなど自然の樹木が、大きな根でがっしりと谷川の岩をつかんで、非常に安定した森と川をつくっていた。災害にも強いわけですね。川床も魚の住める環境になる。中腹で山地の崩壊があっても谷の近くでは丈夫な自然木が受け止めてくれる。そして、谷と尾根に自然の種が、遺伝子がしっかりあれば、崩壊後の剥き出しの地面も蘇生が速い。そういう自然を再現したらと思うのですが、尾根と谷すじを重視されるというのは非常に、着想が素晴らしいんじゃないかというふうに受け止めたんです。もう少しお話くださいませんか。

 遠藤 あの、すごくいい話題をいただいたと思うんですが、その前にちょっお話したいことがあります。先程、あそこはしまったと思ったんですが、2つのキーワードで、谷すじ、尾根すじ、と、それからもう1つは混合する、ミックスするということでしたが、それからもう1つ大事な事を忘れておりました。

 長伐期化と言っておりますけれども、木を切るローテーションを長くすることですね。例えば今、想定されているのは、この辺ですと杉が50年とか40年とかだと思うんですけど、それを80年とか100年という長伐期にすることが必要です。森林の機能の内、水を保護する機能というものは、これは樹齢といいますか、山の大きさ、木の大きさに比例してくるんじゃないかなということです。

 それから多様性というようなことで、杉林の中は杉ばっかりだというのは、例えば標準的に考えますとおそらく間伐していけば杉以外なにもないという状態はだいたい5年生くらいから15年生位でしょうか。それを過ぎると、間伐をちゃんとやっていれば光が入ってきて草が生えてくる。おそらく35年生を過ぎると下に灌木が生えてくる。おそらく100年という林があれば、もう上層のでっかい杉林の下に雑木林ができているという様なかっこうになる。

 そうすると、人工林というものの持つ、非常に木材生産上において都合がいい面と、反面すごく単純であるというようなことが解消されてくるんじゃないか。また別の言い方をしますと100年かけると、ほったらかしておくより人工林の杉植えて間伐していた方がりっぱな山になる。両方ともブナもちゃんと生えますし、そういうことなんです。

 さらにもうちょっとパズル的に言いますと、人工林と天然林、あるいは杉とブナという比較じゃなくて、実はローテーションではないかと。人工林なり杉なりというのは50年位で切るから欠点がでてくるんじゃないかなという1つの考え方は出てくる。一方において例えば、ブナ林なんていうのはその場所によって違いますでしょうけども、ターンアラウンドというような、自然に新たな新しい林に変わっていくというのが150年ないし200年かかるわけですから、これは150年ないし200年伐期の林業をやっているのと同じなわけです。その違いというのは大きいと思うんですね。いわゆるショートローテーション、短伐期というのは非常にいろいろ問題がある。ちょっと長くなりましたけど、補足させていただきました。

 それでは、渓畦林についてです。渓畦が大事だという事につきましては、いつ始まったか知りませんけれども、林業技術としては、営林局でもこれはもう昔からあるんですね。それを、いつのまにか忘れちゃったという場合も多いでしょうし、積極的にということについて重視していない状態がかなりはっきり申し上げれば国民にもあったと思うんです。

 おそらく、昔も今も国民の作業案といいますか、そういう仕事の計画の中では、川の幅から回り何mの両側は保護樹帯とするとか、あるいは尾根筋もその幅10m以上を保護樹帯とするとかいうことは有ったわけです。尾根筋を保護樹帯とするようなことはともかく、川筋はその主旨がなかなか、こう、それを見直してきちんとやるということについては、水産、水系を重視する方からもお話があります。

 それから、アメリカでも今流行りなんですよ。ラペラリアンフォレストと言いまして、今月あたりもカナダで大会議があるんじゃないかと思うんですけれど、あのブリティッシュコロンビア州で次々と鮭の川が全滅しているということです。もう水量が減ったというようなものではないわけです。全滅なんです。そういう様な事も起きているらしい。

 それともう1つは、木材需要とかいろんな林業的な面においても中腹の場所というのはフォローできてないんです。栃だとか、桂だとかというのは、とにかくでっかい材などというのは伝統的に日本の木材市場においては渓畦林から供給されてきたわけです。だからそういったものの造林技術とかいうものは、やっぱり大事で一生懸命これからやっていかないといけない。渓畦林は本来守っていれば良かったんですがなくしてしまったものが多いものですから、これからのテーマだと思います。

 渓畦林、これ、難しいと思うんですよね、山腹よりは。実際にそういった苗を育てる技術とか、植えることとか、それから残った親木から出てきた子供をできるだけ育てるというような技術をやるべきであると思います。実は、今一番遅れている技術だと思います。私は仕事場でも国の経営なんかには何度も申し上げております。

 秋本 その、桂とかシオジとかクルミなどですね、そういった樹種を植林していく技術的な問題はかなり自信のあるレベルにあるんでしょうか。それともこれからまだかなり研究しないといけないということなんでしょうか。

 遠藤 沢沿いでございますので、これは単純な話、山腹で土を掘って木を植えるというスタイルになりません。単純にどう植えるのかな、というのと、どんな状態からスタートするのかは別として、川沿いというのはすさまじい草とつるでございます。それから、例えばトネリコ属やシオジなんかは本当にその苗木は草みたいなんですね。北海道で、シオジと親戚みたいな、ヤチダモの造林があるんですが、あの造林地というのはもうほとんど下刈りのときに切られちゃうんですよ。それでほとんど切ることの失敗によってその苗木がどんどん減っていっちゃうんですよね。そういうような問題とか、もう未経験といっていいようなものです。ただ科学的な研究開発ということはないと思いますよ。

 秋本 まだ、いろいろお聞きしたいんですけど、会場から質問のメモが届いております。まず、21世紀は隣国、中国が発展し、石炭や重油による化石燃料の影響で、酸性雨等が黄砂のようにやってきて日本の森林を痛めつけるのではないかと危惧しているが、それをどうすればいいのか、ということです。

 緑を守るために、クリーンエネルギー源の太陽熱というのもまだまだ開発中でいろいろ問題だし、核なんていうのは、これは本当にそのエネルギー源がそれでいいのかどうか。というような、そのへんがどうなんでしょうという質問でございます。

 それと、これも公害で、酸性雨等が水に及ぼす影響で、立ち枯れ等が現在非難されてますが、日本での対策なり、そのわかる範囲で教えていただければ、と言うことです。酸性雨に対する対策とか、どれぐらいその酸性雨の影響があっているんだろうかとか、そういうようなことなんですけど。

 遠藤 これは、私どもは直接担当していないので知っている限りの事を申しますと、一応今のところ広域的な酸性雨被害がバックグラウンドといいますか、日本の空の広い範囲で大気中の酸性化がすすみ山奥でも酸性雨であきらかに被害がでているということについてはしっかりと確認されていません。そうではなくて、例えば工場の近くの局地的酸性雨ですね。工場の近くの煙がかかるようなところで木が枯れるというような事についてはいくつかありまして、それはいわゆる公害対策のなかで処理をしていくというのが今の状態です。

 もうひとつ、よく言われているのが日本の土壌については、わりと酸性に強いんじゃないかということです。あの、私ちょっとくわしくはわからないんですけど火山灰土壌が多くて酸性物質が入ってもそれを吸収してしまう土の容量というか、能力が高いんだそうです。したがって火山灰土壌というのは、酸性雨被害がかなり起こりにくいのではないかということは言われているようです。

 もう1つは、酸性雨があろうとなかろうと、最初に申しましたような混合林化を進めるのがやっぱりいいと思うんです。特定の土壌なり、特定の立地で酸性雨に限らずいろんな害が起こるわけです。突然外国から、映画のエイリアンみたいな感じで、突然マツ食い虫だの、昔のクリタマバチとかアメリカシロシトなんかやってきたときに、特定の樹脂がバタッ、といくわけです。マツ食い虫みたいに。そういう時にはげ山にならないためには、やはり混合林化を進めておくことが必要です。だから非常に扱いやすい広葉樹、ブナでもいいですし、けやきでもいいんですけど、そういったものをできるだけ混ぜていくっていうのがいわゆる危険分散と申しますか、そういった意味では酸性雨に限らずそうやっていくのが安全で何が起きても保証があるという意味では必要だと思います。

 あとは中国がエネルギーや環境問題をどういうふうにやるかというのが一番大きいと思います。それは、今のところわかりません。

 秋本 そうですね。危険分散の政策も大切ですね。細菌やウィルス、原生虫、それから、昆虫たちすべての生き物は進化の過程で突然変異が起こる。例えば、樹液でその進入を抑えていたのにその樹液をいとも簡単にくぐり抜ける種が現れたら単一樹種だと瞬く間に森は禿山になる危険性がある。これまでもいくつか似たようなケースを私たちは体験しているのですね。

 それから、質問がもう一通。これから先の時代に、民間の企業が利益を上げながら環境を良くしていくような事が考えられるんじゃないかと思いますが、そういう方法がありますでしょうか、という事なんです。林業に関係なくても、また林業も含めてもだと思うんですけれども。

 安楽 私が考えるのは、先ほどの話とダブってしまうんですけども、長伐期化という話がありました。長伐期化して100年前後を越えたら広葉樹も針葉樹も環境は変わらないというお話がありました。

 実は、私たちインストラクターが何を一生懸命やっているかと言いますと、杉、檜というのが最近では一番悪者になりまして、広葉樹と言いましたらなんでもかんでもスター扱いになり、ちょっとばかり林業にたずさわる者といたしましては困ったなという思いがあります。

 そういうことで、先生のお話にきちっとした健康な森をという話がありましたけれども、私はそれに尽きると思います。その中で皆さんに理解してもらうためにどうしているかと言いますと、公民館活動などで集まりがありますと、金峰山という所に今90年生の人工林がありますので、そういう所に案内することにしています。皆さん神社の木を今、思い出していただいてもけっこうですけど、針葉樹というのは自然に枝が落ちてきます。そして樹高30m位になりますと、上の10m位しか枝というのは付いておりません。そうしますと光がいっぱい入ってきます。ですから100年以上たった森になりますと見事な2段林3段林を作ります。

 熊本の吉無田高原という所は江戸時代の末期に植林したところです。今の御船町ですけれども、あそこに水が無かった。だから木を、杉を植えよう、ということで植えまして、その山が今、山頂部にわずか3ヘクタールですが150年生を越える山が残っております。そこへ行きますとやはり2段林3段林となっている。いわゆる一番上が杉ですけれども、その間に2段林ができまして、下は光に強い木が生えている。そういうことを考えますと、今質問で儲かる、何か環境を守りながらということを考えますと、先程先生の話されました、長伐期をしながら、そしていわゆる択伐をする。必要な時、必要なだけ切ってまた後に残す。そういうことをしながら、また複層林を造っていく。木材の値段は今しませんのでできるだけ、そういうような長伐期にもっていって利用することによって、なんとか道が開かれる1つの方法ではないかなというような考えも持っているわけです。

 秋本 ありがとうございました。なかなか理想と現実のギャップの差は大きいものがあります。難しい質問ばかりですが、その杉の木が台風に弱い、その対策はどの様にすればよいのでしょうかというのがありますけども。

 岩永 いや、杉の木が台風に弱いということは無いと思います。この間、馬見原で600数十年というのが倒れたんですけどね。五ヶ瀬のお寺の大きな桜の木も倒れたんですよね。あの時、相当こっちでは大きな木が、杉も倒れた、桜も折れたというような形だったんです。けれども、杖立から小国町、日田にかけての台風13号の時はものすごい被害を受けたわけです。

 あの時は、あまりにも枝打ちの手入れを良くし、あまりにも風通しを良くしていたからその辺が被害が大きかったんですよ。かえって手入れを良くしなかった人の山の方が被害が少なかったというところです。

 あの、マント袖、これはもう遠藤先生のテリトリーの話だろうと思いますけど、森というのはちゃんとマントをつけています。風は全部ふさいでしまって、全体で木を風から守るんですよ。そういうふうに自然はうまく作っているのが、それをスカスカやってしまうと風が通り抜けて倒すことになるわけです。これはお二人の方がお詳しいと思いますが、植物学的にはマント袖ということでありますから、杉が弱いということではないと思います。

 やっぱりその付近の防風林といいますか、そういうのを含めてやり方次第だと思います。たまたまそういう強い台風が来たらこれはしかたが無い。もう今まで600数十年も生きてきた馬見原のシンボルのすごく大きいやんぼるさんの杉が倒れましたからね。そこの五ヶ瀬の何とか神社の桜が折れましたものね。しだれ桜の見事な桜が。300年か、400年位ですかね。ああいう台風が来れば、大きい人には風当たりが強いようにやっぱりそういうことになると思います。

 ただ、もう1つは先ほど申しましたように、雨水なんかの問題がある。本当に林の床と書いて林床ですね。林の床まで日が差し込むような山の管理をしないと、崖崩れ、山崩れ、土砂崩れが発生すると思います。阿蘇の草原の一の宮町の災害の時がそうでした。あの原野の中に植林していったのが、手入れが悪くて真っ黒で、もう杉山が全部土砂崩れ。原野そのものの所は崩落しなかったんです。木があったために落ちた所というのは、みんな杉山なんです。その杉山が流れて流木でダムを作ってドーンと押し流したから町の一部が流されたんです。

 阿蘇の草原なんていうのは、すすきとか、小さな笹がいっぱい生えています。極端に言えば根が30cmも40cmも厚いわけですよ。あれも1回剥いでから大根畑とかに草地改良してしまうとザーと流れます。草原も長い歴史にさらされると、根が30cm40cmも生えてすごく強いんです。そういうことで、根をしっかり健康にするためには床はしっかりしなくちゃいけないということはいえると思います。

 秋本 はい。ありがとうございました。これから本当は、もっとお話を突っ込んでいきたいんですけど時間が無くなりました。会場からのご質問にお答え頂いて終わりにしたいと思います。次は、ドングリについてもっとお話をお聞きしたいというのがあります。

 安楽 ドングリは、何をドングリと言うかといいますと、大きいのは栗の実から椎の実までブナ科の植物の実を全部ドングリで総称されています。そういうことでドングリというのは14〜15種類あると思います。その中にはイチガシと椎の実も入ってきます。
 一昨年の新聞に、古代、弥生時代から古墳時代に移るときに森が無くなっちゃったと載ってたんです。それを証明したのがドングリだった、という記事が出ていました。それはどういう事かと言いますと、紀元前200年頃から300年頃までの遺跡は全部イチガシのドングリが出てくるわけなんです。そして古墳時代に入りまして、紀元後450年頃になると全部アラカシになってきている。と言いますのは、難しい言葉で言いますと森の遷移です。森が移っていくときに暖温帯林、普通は暖帯林とかあるいは、照葉樹林で象徴されるんですけど、そういうところの最後に出てくるのはイチガシなんです。

 今でもテレビなんかで、ドングリで団子を作るというときには、イチガシの実を探される。理由は自分たちが口で食べても渋みが全然ないんです。ところがアラカシは口に入れたとたんに渋みが出る。そういうことで古代人も好んで渋みを食べたはずがない。ということは、最後に出てくるイチイガシの森がまずあって、それを古墳時代のいろいろ薪を使うようになってから、森が消え、そしてその後、最初に出てくるのがアラカシなんです。こうして、遷移が始まるんですけれども、そのころ1回森がなくなっちゃったというのが証明されたというような事です。

 昔の遺跡からそういうことが出てきますので、昔は人間というのはドングリが主食であったと思います。そういうことから、ドングリが一番身近に手に入るのはアラカシですので、アラカシは非常に水のさらし方の技術がいりまして食べるまでになかなか時間がかかるようです。イチガシはそんな風にして渋みがないから簡単に食べられるというようなことでございます

 秋本 はい、ありがとうございました。それでは時間も残り少なくなってきましたが、いつも出てくる質問が最後にあります。国産材時代が来ますかどうかということですね。難しい問題だと思うんですが、あの最後にこれだけ言っておきたいなという様なこと、おひと方ずつお話いただいて終わりにしたいと思います。シンポジウムでございますから、特に結論を出すとかそういうことも必要ないわけでして、皆さん方の思い思いをぶつけていただいて、そして参加者の皆さん方が思い思いに、胸に受け止めていただけたらと思います。どなたからでも結構ですけれども。じゃ、安楽先生どうぞ。

 安楽 それじゃですね。森を守っていく、あるいは森を考えるときに是非地球の温暖化ということを先ず思って頂きたい。報道なんか見ますと21世紀になりますと地球の平均気温が2〜3度上がるほどの温暖化現象がおこるとある。だから大変なんです。その意味を是非皆さんも実感してもらいたいと思います。なぜそういうことを言うかというと、この温暖化を防ぐには最後に帰するところは私は森だと思っております。今、ここが標高400m位でしょうか。そうしますとここでだいたい熊本市内としますと400mだと100mで0、6℃ずつ違った場合4×6で2.4℃違うことになる。ということはここに熊本市の気温が上がってくるわけです。そうしますとここの温度がスキー場に上がっていくわけです。

 そうしますとブナとかミズナラといいますのはオンリョウ指数というのがありまして、80位でないと存続できないわけなんです。そういうことで温暖化が2℃も3℃も進むという事になりますと森が一転してしまいまして、今この大事なといいますか、わずかしか残ってない太平洋型ブナが消えてなくなってしまうおそれがあります。是非そういう温暖化ということを考えてもらいたい。地球の温度が2℃か3℃上がるのか、その位は暑くなってもいいという問題ではありません。それが実際問題となった時はどんなになるんだというような事を考えていただきたい。

 熊本が屋久島の気候になってしまうわけなんです。そういうことになってしまいますと大変なことになります。けれども、そこは今日の皆さんが一番、森はどうなっていくんだろう、杉、檜どうなっていくのだろう、国産材時代は来るのだろうかという疑問はありますけれども、そこをしっかり守っていけばこの温暖化ということも、私は防げるんじゃないかなというふうに思っておりますので森を考える時に温暖化の事も考えていただければなと思います。

 秋本 ありがとうございました。それでは岩永先生。

 岩永 私は今から10数年前、熊本の江津湖で都市緑化フエアーという博覧会の会場を作りました。その時に私が思ったことは、博覧会のような一過性のものに鉄骨やコンクリート等を使うとその処理が産業廃棄物が出て大変である。だから小径木を徹底的に取り入れて国産材というか、今、問題になってる間伐とか小径木を使いました。これから先、杉、檜とかいう木材がただ建物のための木材だけでなくて、いろいろ考えるとたくさん使える場所があるということを示したかった。その付近を使うためにはいろいろ研究しないといけないと思いました。

 森林組合とか製材所の人達にすれば、話が建築材にいってしまいますけど、もう少し、たとえばブロック塀なんかも今後やったらよいと思います。"粋な黒塀みこしの松に"じゃないけれど、防腐加工も進んでおりますからそういうものにユニットでタタッと作られるならば、いろいろ工作もしやすいし、いっぱい使い道があるような気がします。これは木材に携わる人だけじゃなくて、商業デザイナーのような人達がデザインするとそうとういいものが見栄えのいいのが出てくるのではないでしょうか。非常にナウイということでカッコ良くなって売れるんではないかということも期待してしてます。

 熊本市に花畑公園と辛島公園という二つの両極端な公園があります。熊本市がされた事を役所の人間が悪口を言うといけませんが、辛島公園というのは全部石作りで、もう真夏になれば40度ぐらいの熱を出します。今熊本市内も全国の都市もそうですけど、アスフアルト砂漠のコンクリートジャングルです。はっきり申しまして、ヒートアイランド現象といって都市熱という建物の中の廃棄熱や自動車の廃棄熱などがたまって都市は過ごしにくいようになっていますけれど、私はまだまだ都市の公園というのはオアシスだろうと思います。

 私はその時、当時の市長とその設計者とその監督課の人達が全部、花畑公園と辛島公園で一時間ずつ都市の公園のあり方というシンポジウムをしてくれないかといっておりました。夏に辛島公園に一時間居るならぶっ倒れてしまうと思いますけれど、花畑公園は大きな楠が繁っておりまして、一時間居ても涼しいわけです。利用する人の気持ちになって整備した公園等は、都市の公園といえどもオアシスだろうと思います。そいうものなどには、本当にもう少し木材を利用したらどうかなと思います。

 私、ちょっと自分の事を宣伝するようですけど、熊本のグリーンピックで一生懸命やった実績が評価されまして、大阪の世界の万博では私のアイデアを15、6人の設計者が二回見にこられました。オーバーに言うと半分近くも利用されましたけれど、心の中じゃ万歳と思って帰ってまいりました。本当にそういう博覧会等なんかにも木材の利用はいっぱいできると思います。そういう木材をいろいろ使うという事を国産材で考えてほしい。山で間伐材を捨てることじゃないとそう思います。

 秋本 ありがとうございました。それでは最後に遠藤先生お願いします。

 遠藤 国産材時代は来るかですか。岩永さんのおっしゃった通り山で間伐材を捨てている。あるいは間伐しないので太い木が枯れていく。あるいは折れていく。森林資源を非常に無駄にしながら木材を輸入しているという事について、国産材時代が来るかだと立派な事を言う以前にこれは恥ずかしい事じゃないかと思うんですよ。だからやっぱりそういった物を直して行かなきゃならないなと言う事ですね。最初の方で申しましたように、日本とかアメリカとかヨーロッパの数ケ国というのは、今の日本の現状もいいろいろ問題はあるんですけれど、環境とか国土を守りながら緑を楽しみながら林業生産が出来る力が十分あるわけです。

 技術的にも、社会的にも、経済的にも、日本で作られる木材というのは、やはりそういう安全な木材なんです。例えば、私が座っているここの木がひよっとしたらそのネパールで伐採によって大水害がおきて何千人だか何万人の人間を流しちやった原因になった木材かもしれないのですよ。国産材は、材質とかなんとかいうのは別として少なくともそういう事はやってないという材なんです。だからそういう安全な材を生産出来る体制にある国民とか、技術屋というのはやはり、最大限その木を作って出して行くという義務があるんじゃないか。そいう事で非常に意見が一致した。アメリカのある営林署長がそれをグローバルジャスチストだ、地球的正義だというふうに言っていました。まあそういう感じがします。だから林業の方もよろしくご理解いただいて、いろいろいっしょにやって行きたいと思います。

 秋本 どうもありがとうございました。時間でございます。今回のシンポジウムは、特に森というテーマで主に林業者の立場として、それぞれご意見を出していただきました。長時間にわたり熱心にご静聴くださいましてありがとうございました。これでパネルディスカッションを終わらせて頂きます。(拍手)

 黒木 ご紹介いただきました実行委員の黒木でございます。一言、先生たちにお礼を申し上げたいと思います。先ほどまで、本県では大変ユニークな中高一貫教育の学びの森五ヶ瀬高等学校の生徒さんがこのシンポジウムを楽しにお越しいただいておりました。最後までお付き合いをいただきまして、本当に感謝申し上げます。

 本日は、九州は福岡をはじめ、熊本、宮崎その他、各地からお越しいただきありがとうございました。また本日の講師の先生方にはボランティアで、この僻遠の五ケ瀬までお越しを賜り、御講演をいただきましたことを心からお礼を申し上げたいと存じます。

 御三方の先生には、風人間という立場からそれぞれの専門分野の情報を満載してお越しをいただき、大変短い時間でございましたけども、盛り沢山の話を頂戴いたしました本当にありがとうございました。これを機に私どもはより良き森を作り育て、そしてより良き風土を築き上げてまいりたいとそのように決意も新たにしたところでございます。

 木を見て森を見ずというような事もございますが、実は私は、この隣村のひえつき節の里椎葉村におるわけですが、なんと96%が山でございます。森に囲まれて暮らしをしているわけで、何もかも森の事については知っているつもりでしたが今日御三方の先生方のお話を聞きまして、いかに森について何も知ってないかという事が良くわかったしだいでございます。まさに目からうろこが一枚落ちた、このような感じでいるところでございます。

明日霧立越を縦走するわけでございますが、その中では一本の木について見る感覚が昨日までとはちよっと違うんではないかと今から楽しみに思っているところであります。

 最後のトークにつきましても、本当に時間が足りずに、まだくい足りなかったんではないかと思いますけれども、この分はまた後段で懇親会の場もございますので、お話し合いをいただきたいと思います。

 私ども山村にいるわけですが、ご案内の通り、今、全国的に山村は過疎化にあえいでおります。過疎とは人口が減っていること。じゃ、人口が多ければそれでいいのかと、私はそういうことにはならないと思っているんです。

 山村の活性化は頭数が何人いるかということではなくて山村と都市との比較が出来る人がどれだけいるのか、山村の良さがわかる人がどれだけいるのか、こういうことが山村に住む立場の者としてはきわめて重要なのではないかとそのように思ってます。

 そういった意味で今日のシンポジウムは本当に、私どもの血となり、肉となった思いで、今、お聞きをいたした次第であります。本当に3名の先生方ありがとうございました。心からお礼を申し上げます。

 すでにご承知かもしれませんけれども、霧立越シンポジウムは、もう5回行っているわけです。これは別名「五感の集い」とも言ってまいりました。五感と申しますのは、視覚、聴覚、臭覚、触覚、味覚、5つあるわけでございますが、今日は1時から始まりまして、すべて聴覚だけでございます。

聞くのみでございましたけれど、この後7時から、五感のうちの2つめ味覚をヤマメの里で堪能いただく、そういう指向をこらしているところでございます。どうぞ楽しみにしていただきたいと思います。残りの3つは、明日徐々に、視覚、臭覚、触覚をお楽しみをいただきたいと思います。本当に今日はありがとうございました。お礼申し上げます。