毎日新聞寄稿
「明日のために」―ぴりっとからっと―
12月
「神話は宮崎のアイデンティティ」
やまめの里 秋本 治
秋が深まり、冬至が近づくと山村のあちこちでは夜神楽が始まる。ピーンと冷えこんだ空気に笛や太鼓の音が響くと郷愁をそそられるものである。
五ケ瀬町鞍岡の大石の内地区でもこのほど「おひまち」があり、鞍岡祇園神楽33番が舞い通された。
「おひまち」とは天照大神をお祀りした天津神社でお社(やしろ)にお籠(こも)りして朝日を迎える「お日待ち神事」である。天照大神は太陽を象徴しているので「おてんとさん」とも呼ばれ親しまれている。
お神楽は、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)が日向の橘の小戸の阿波岐原で禊(みそぎ)をした時生まれた神々の舞いからはじまり、朝、太陽が昇る頃、天照大神を天の岩戸からお連れするという一連の舞いである。
神話は、天津神系と国津神系の神々が登場する。天津神は、皇祖神の系譜であり、国津神は土着の神だ。天津神を渡来人、国津神を縄文人として神格化して語り伝えたと見ると神話は興味深いものがある。
渡来した天津神は、国津神を服従させながら東進を繰り返し九州山地を越え天下りしてついに一つ葉海岸に到達した。ここを東の果てとして皇祖神の天照大神の誕生の地にした。お神楽はそんなイメージをわかせてくれる。
神楽は地域によって楽や命づけ、舞い方などが異なる。その昔、お祭りに歩いて集まり、終わって帰れる範囲が集落の基本を構成したのだ。お神楽は、その地域の中に浸潤していくにつれそれぞれ異なってきた。
神楽の数は集落の数でもある。国家起源を語る神話はこうして地域の遺伝子となって伝承されたのだ。
県観光協会の資料によると宮崎は、山村から漁村まで200種を超える神楽が伝承されている。全国でもっとも神楽の多い県である。
神話は、日本最初の都が宮崎であったことを伝えているのではないか。神話を宮崎のアイデンティティとしてもっと活用すべきである。