(毎日新聞宮崎版 2002.3.7)
霧立山地と山伏
―未知の世界のロマン―
やまめの里 秋本 治
霧立山地の白岩山西斜面に「ガゴが岩屋」と呼ぶ洞窟がある。人が住むのに結構便利と思われる八畳ほどの岩屋だ。子供の頃悪さをすると「ガゴが来るぞ」と脅されていた。その「ガゴ」が何物かは古老も説明できなかった。
昨年発見した白岩山の東斜面にある「幻の滝」も不思議な場所である。地形が険しく村人も恐れて入らなかった。
「遠くから見えた白い布が近づくと消える」とか、「近づくと鶏の鳴き声が聞えた」などと不思議な伝説が語り継がれている。森の奥深く、人も立ち入らないところで、人の臭いがぷんぷんするのである。
その麓にある五ケ瀬町鞍岡では、秋まつりに山伏装束の二人が相対して「そうれに見える山伏は何山伏にて候」と掛け合う「山法師問答」が演じられている。源義経が東下りの時、関所に咎められるところを山伏に成りすまして通過したという安宅の関の場面だ。
夏まつりには、タイシャ流「白刃」と呼ぶ古武術が行なわれている。真剣に対して三尺棒、六尺棒で戦う試合の型である。
タイシャ流は、人吉出身の丸目蔵人が開祖であるが、鞍岡に保存されている秘伝書は三百六十年前のもので山伏らしい人物から伝授されている。
こうしたことから考えると霧立山地には、その昔山伏の本拠地があったのではないかと思う。山伏は、修験者ではあるが絶えず武術を磨いていたので明治政府は恐れてその痕跡を抹消した。もっと解明したいものだ。
地域づくりには、未知の世界を解き明かすロマンが必要だ。地域のアイデンティティはそこから生まれる。
山村は古くから多くの歴史や民俗文化に包まれてきた。その奥には自然と共生する哲学的な思想も見える。目先の利益や経済論だけでは日本の文化や地域が滅びてしまう。