(毎日新聞宮崎版 2002.2.8)
ヤマメ漁解禁に想う。
やまめの里 秋本 治
二月上旬は、九州山地にもっとも雪の多い季節である。近年は雪が少なくなったが今冬は久方ぶりに雪の多い冬となった。
これから三月に向かうと雪融け水が渓流を潤し渓魚たちに春を告げる。渓流の女王ともいわれるヤマメはこのように源流に雪を戴くブナ林によって育まれてきた歴史を持つ魚である。
ヤマメは、日照時間が短くなるにつれ成熟し、やがて渓谷に紅葉が染まる時産卵を始める。子孫を砂中の卵に託した魚は疲れ果て、やがて流れてくる落葉の中に埋まって姿を見せることなく静かに一生を終わるのである。
通常二年目で産卵するが当歳ものでも一部の早熟ヤマメは産卵に参加する。このヤマメは産卵後も翌年まで生命の灯をつなぐことができるのだ。
産卵で痩せ衰えたヤマメは氷のような水中で岩陰に潜んで春を待つ。二月も終わりに近づくと陽光がまぶしく光り出し、渓流の水が温んでくる。すると飢餓状態から餌を求めて猛烈に活動を起こすのである。
そうした三月一日はヤマメ漁の解禁日だ。この日を待ちかねていた渓流釣りファンは一斉に春の気配を漂わせる渓流へ早朝から出かけ愛用の竿を繰り出す。
この時釣れるヤマメは、産卵に疲れて痩せ衰えたままの魚体で、ヤマメ本来の美しさがなく、食べてもまずい。しかも飢えているため入れ食い状態で根こそぎに釣られてしまうのである。
ヤマメの盛期は、山吹の花が咲く頃だ。もりもり食べて体力を恢復した五月ヤマメは、魚体が美しく五色を放ち、まさに渓流の女王にふさわしい姿となる。
禁漁は、産卵の始まる十月からであるが九月下旬になると完熟したヤマメは餌を摂らない。三月一日の解禁も疑問符がつく。もう一月辛抱するとヤマメの価値や保護増殖の効果はより高まるのにと残念に思う。